第7講 行列による分類   1講 2講 3講 4講 5講 6講  8講

線型代数第7講
行列による分類

【第7講のポイント】
本講では、平面の2次曲線、空間の2次曲面を行列を使って分類する。

【第7講の目標】 学習後、以下のことが身についたかチェックしよう。
  1. $n$変数の2次形式(2次同次多項式)の行列表現を学ぶ
  2. 2次曲線の分類を理解する
  3. 2次曲面の分類を理解する

【第7講の構成】
 1節 2次形式
 2節 2次陰関数の分類


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この教科書はBookletを利用して作成している。

第1節 2次形式

 これまで対角化の問題を「表現行列ができるだけ簡単になるように基底を選ぶ」という観点から論じてきた。相似な行列の中で最も簡単な形の行列を「標準形」と呼ぶと、求められた標準形はそれに相似な行列を代表する「代表元」と見做せる。本項では、対角化(代表元)により正方行列をたがいに相似な行列に分類(クラス分け)することを考える。本講で議論する対象は実数上の2次式(が表すグラフ)であるが、まず2次の同次多項式について考えてみよう。

定義.実係数の2次同次多項式 $\displaystyle f(x_1,x_2,\dots,x_n)=\sum_{i=1}^na_{ii}x_i^2+\sum_{1\le i\lt j\le n}2a_{ij}x_ix_j$を2次形式といい、$\vect{x}={}_n[x_i]$と実対称行列$A={}_n[a_{ij}]^n$を用いて $f(\vect{x})=\vect{x}\bullet A\vect{x}$
$=[x_i]^n{}_n[a_{ij}]^n{}_n[x_i]$ と表し、$A$を2次形式$f(\vect{x})$の係数行列と呼ぶ。

 ここで、$n$次正則行列$P$により$\vect{x}=P\vect{y}$と表す(即ち変数変換$\vect{y}=P^{-1}\vect{x}$を行う)ときの係数行列$A$の変化を考えてみよう。
$g(\vect{y}):=f(P\vect{y})=P\vect{y}\bullet AP\vect{y}=\vect{y}\bullet P^\mathsf{T}AP\vect{y}$
だから、$g(\vect{y})$の係数行列は$P^\mathsf{T}AP$になる。
 前講の結果から、実対称行列$A$は直交行列$P$を用いて実数の範囲内で対角化($P^{-1}AP={}_n[a_i\delta_{ij}]^n$)でき、$P^{-1}=P^\mathsf{T}$である。即ち、直交行列による変数変換(直交変換)で2次形式$f(\vect{x})$を $\displaystyle f(P\vect{y})=\sum_{i=1}^n a_i y_i^2$($a_i$は$A$の固有値)とできる。
例.$2x_1^2+2x_2^2+2x_1x_2= \begin{bmatrix}x_1 & x_2\end{bmatrix}\begin{bmatrix}2 & 1\\ 1 & 2\end{bmatrix}\begin{bmatrix}x_1\\ x_2\end{bmatrix}$とする。係数行列は、直交行列$\displaystyle P=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{bmatrix}1 & 1\\ -1 & 1\end{bmatrix}$を用いて$\begin{bmatrix}2 & 1\\ 1 & 2\end{bmatrix}P=P\begin{bmatrix}1 & 0\\ 0 & 3\end{bmatrix}$と対角化でき、$\displaystyle P^{-1}=P^\mathsf{T}=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{bmatrix}1 & -1\\ 1 & 1\end{bmatrix}$だから、変数変換 $\displaystyle y_1=\frac{x_1-x_2}{\sqrt{2}},\ y_2=\frac{x_1+x_2}{\sqrt{2}}$ により $2x_1^2+2x_2^2+2x_1x_2=y_1^2+3y_2^2$ と書ける。
 この事の幾何的なイメージを得るために$2x_1^2+2x_2^2+2x_1x_2=6$のグラフを描いてみよ(WolframAlpha)。
問.実係数1次同次多項式$f(\vect{x})=\dsum_{i=1}^n b_ix_i=\vect{b}\bullet\vect{x}$に対し、直交行列$P$で $f(P\vect{y})=(\|\vect{b}\|\vect{e}_1)\bullet\vect{y} =\|\vect{b}\|y_1$となるものを求めよ。
.$f(P\vect{y})=\vect{b}\bullet P\vect{y}=P^\mathsf{T}\vect{b}\bullet\vect{y}$より 線型空間$\{ \vect{v}\mid \vect{v}\bullet\vect{b}=0\}$の正規直交基底$\langle \vect{i}_2,\dots,\vect{i}_n\rangle$を用いて$\displaystyle P=\left[\frac{1}{\|\vect{b}\|}\vect{b}\ \vect{i}_2\ \cdots\ \vect{i}_n\right]$とすれば、$P^\mathsf{T}\vect{b}=\|\vect{b}\|\vect{e}_1$。

第2節 2次陰関数の分類

 前節では直交行列による変数変換で、2次形式中から2変数の積の項が消せることを見てきた。最高次数2の多変数多項式を2次式と呼び、“2次式$=0$"に同値な等式を2次陰関数と呼ぶ。本節では2・3変数の2次陰関数の変数変換による標準形(分類)を調べる。2・3変数の2次陰関数は、平面・空間の2次曲線・曲面の陰関数表示なので、本節の目標は2次曲線・曲面の分類でもある。

2変数の2次陰関数

実数上2変数の2次陰関数(2次曲線) 
$C:a_{11}x_1^2+a_{22}x_2^2+2a_{12}x_1x_2+b_1x_1+b_2x_2+c=0$
は直交変換 $\vect{x}=P\vect{y}$ で(係数を改めて置きなおし)
$C:a_1y_1^2+a_2y_2^2+b_1y_1+b_2y_2+c=0$
と変形でき、$a_1\gt 0$ としてよい。さらに
 1. $a_i\ne 0$ならば$z_i=y_i+\dfrac{b_i}{2a_i}$とおき$z_i$の係数を$0$に
 2. $a_2=0$かつ$b_2\ne 0$ならば$z_2=y_2+\dfrac{c}{b_2}$とおき定数項を$0$に
できるから、各係数の符号(負,$0$,正)で(縮退する場合も含めて)次のように分類できる。なお表中、灰色の欄は上記1.2.の変数返還で$0$にできる係数(定数)を意味し、標準形では変数$z_i$を$x_i$に置き直し、係数(定数)も適宜置きなおしている。各曲線のリンクからその概形を確認しておこう。

$x_1^2$$x_2^2$$x_1$$x_2$$定数$標準形(定数部は右辺)曲線
 0 0$a_1^2x_1^2+a_2^2x_2^2=1$楕円
 0$x_1=x_2=0$1点
空集合
 0 0$\ne 0$$a_1^2x_1^2-a_2^2x_2^2=1$双曲線
 0$x_1=\pm a_2x_2$交差2直線
 0 0$\ne 0$ 0$x_1^2=b_2x_2$放物線
 0$x_1=\pm c$平行2直線
 0$x_1=0$直線
空集合
例.$C:2x_1^2+2x_2^2+2x_1x_2+4x_1+8x_2+2=0$とする。変数変換 $y_1=\dfrac{x_1-x_2}{\sqrt{2}},\ y_2=\dfrac{x_1+x_2}{\sqrt{2}}$ により $2x_1^2+2x_2^2+2x_1x_2=y_1^2+3y_2^2$ と書け(前節の例)、さらに $4x_1+8x_2$ を $y_1,y_2$ を用いて表せば
$C:y_1^2+3y_2^2-2\sqrt{2}y_1+6\sqrt{2}y_2+2=(y_1-\sqrt{2})^2+3(y_2+\sqrt{2})^2-6=0$
よって$z_1=y_1-\sqrt{2}=\dfrac{x_1-x_2}{\sqrt{2}}-\sqrt{2},\ z_2=y_2+\sqrt{2}=\dfrac{x_1+x_2}{\sqrt{2}}+\sqrt{2}$とおけば、$C:z_1^2+3z_2^2-6=0$と書ける。

変数変換の幾何的意味

 変数変換の図形(幾何)的な意味を見ておこう。平面の場合で議論するが、空間でも次元(変数)は1増えるが同様である。
 座標系を介して、平面は$\mathbb{R}^2$と同型で、2変数の2次陰関数が2次曲線を表す。平面の座標系$(I,\mathrm{O})$は、原点$\mathrm{O}$と互いに直交し長さの等しい幾何ベクトルの組$I=\langle\vect{i}_1,\vect{i}_2\rangle$とからなり、$\overrightarrow{\mathrm{OQ}}=\langle\vect{i}_i\rangle^2{}_2[x_i]$となる$\vect{x}={}_2[x_i]\in\mathbb{R}^2$を点$\mathrm{Q}$の座標という。$I$は、$\mathbb{R}^2$の内積が定める内積の下で、正規直交基底である。
 基底$I=\langle\vect{i}_i\rangle^2$が直交変換$P={}_2[p_{ij}]^2$で$J=\langle\vect{j}_j\rangle^2=\langle\langle\vect{i}_i\rangle^2{}_2[p_{ij}]\rangle^2$に移るとき、$\langle\vect{j}_j\rangle^2{}_2[y_j]=\langle\langle\vect{i}_i\rangle^2{}_2[p_{ij}]\rangle^2{}_2[y_j]=\langle\vect{i}_i\rangle^2({}_2[p_{ij}]^2{}_2[y_j])$より、曲線$C:f(\vect{x})=0$を座標系$(J,\mathrm{O})$で表す式は、$C:f(P\vect{y})=0\ (\vect{y}={}_2[y_i])$である。
 次に原点の位置を移動し、$C:g(\vect{y})=0$を座標系$(J,\mathrm{O'})$の下で表す式を求めてみよう。$\overrightarrow{\mathrm{OO'}}=\langle\vect{j}_j\rangle^2{}_2[t_j],\ \vect{t}={}_2[t_j]$とする。平面の点$\mathrm{Q}$の、$(J,\mathrm{O})$での座標を $\vect{y}={}_2[y_i]$、$(J,\mathrm{O'})$での座標を$\vect{z}={}_2[z_i]$とおくと、$\overrightarrow{\mathrm{OQ}}=\overrightarrow{\mathrm{O'Q}}+\overrightarrow{\mathrm{OO'}}$だから、$\langle\vect{j}_i\rangle^2{}_2[y_i]=\langle\vect{j}_i\rangle^2{}_2[z_i]+\langle\vect{j}_i\rangle^2{}_2[t_i]$。よって $C:g(\vect{z}+\vect{t})=0$と表せる。
 一方、座標系を固定して考えれば、これらの変換は曲線の回転・反転と平行移動とにあたる。

問.$2x_1^2+2x_2^2+2x_1x_2+4x_1+8x_2+2=0$のグラフを次の2通りの方法で描け。(WolframAlpha)
  1. 例題の変数変換にそって、$x_1x_2$平面上に$y_1y_2$座標と$z_1z_2$座標を描き、$z_1^2+3z_2^2-6=0$のグラフを描く。
  2. $x_1^2+3x_2^2-6=0$のグラフを-45°回転し$x_2$方向に-2平行移動させる

3変数の2次陰関数

実数上3変数の2次陰関数(2次曲面)
$S:a_{11}x_1^2+a_{22}x_2^2+a_{33}x_3^2+2a_{12}x_1x_2+2a_{13}x_1x_3+2a_{23}x_2x_3\\+b_1x_1+b_2x_2+b_3x_3+c=0$
は直交変換 $\vect{x}=P\vect{y}$ で(係数を改めて置きなおせば)
$S:a_1y_1^2+a_2y_2^2+a_3y_3^2+b_1y_1+b_2y_2+b_3y_3+c=0$
と変形でき、$a_1\gt 0$で$a_2,a_3$が同時に負とはならないとしてよい。さらに
 1. $a_i\ne 0$ならば$z_i=y_i+\dfrac{b_i}{2a_i}$とおき$z_i$の係数を$0$に
 2. $a_2=a_3=0$ならば変数$y_2,y_3$の直交変換で$z_3$の係数を$0$に
 3. $a_i=0$かつ$b_i\ne 0$なる$i$があれば$z_i=y_i+\dfrac{c}{b_i}$とおき定数項を$0$に
できるから2変数と同様、各係数の符号(負,$0$,正)で(縮退する場合も含めて)次のように分類できる。各曲面のリンクからその概形を確認しよう。

$x_1^2$$x_2^2$$x_3^2$$x_1$$x_2$$x_3$$定数$標準形(定数部は右辺)曲面
000$a_1^2x_1^2+a_2^2x_2^2+a_3^2x_3^2=1$楕円面
0$x_1=x_2=x_3=0$1点
空集合
000$a_1^2x_1^2+a_2^2x_2^2-a_3^2x_3^2=1$一葉双曲面
0$a_1^2x_1^2+a_2^2x_2^2=x_3^2$楕円錐面
$a_1^2x_1^2+a_2^2x_2^2-a_3^2x_3^2=-1$二葉双曲面
000$\ne 0$0$x_1^2+a_2^2x_2^2=b_3x_3$楕円放物面
0$a_1^2x_1^2+a_2^2x_2^2=1$楕円柱面
0$x_1=x_2=0$直線
空集合
000$\ne 0$0$a_1^2x_1^2-a_2^2x_2^2=b_3x_3$双曲放物面
0$\ne 0$$a_1^2x_1^2-a_2^2x_2^2=1$双曲柱面
0$x_1=\pm a_2x_2$交差2平面
000$\ne 0$00$x_1^2=b_2x_2$放物柱面
0$x_1=\pm c$平行2平面
0$x_1=0$平面
空集合